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銀雨用日記
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 紅茶はダージリンが好きだと言っていた。
 温めたティーポットに茶葉の分量を量って入れる。沸騰したお湯を注ぎ、きちんと蓋をして蒸らす。
 ゴールデンルールという淹れ方があるらしい。それ程、きちんとした手順ではないと思うが、真似事くらいは出来ている筈だ。
 知秋自身は、紅茶の味の違いはよく解らない。緑茶なら、それなりに解る。
 入れたポットを持って、リビングへと足を運ぶ。
「…何してんの」
「寝ちゃったよ。可愛いな」
 窓を背にしたソファに座って、流季が笑う。その膝では、巻き毛のお姫様が眠っていた。
 テーブルにポットを置いて砂時計を返す。
「文ちゃんに何かしたら、追い出すからね」
「何か、って何」
「流季君、文ちゃん抱っこしているだけで、それでいいと思うような人じゃないでしょう」
「否定はしないけどな」
 笑みをかみ殺すように、流季は言う。それが、何だか、気に入らない。
「ちぃも、抱っこしてほしいのか?」
「定員オーバーでしょ。私は、私の椅子を探すもの。流季君は要らない」
 そんな精一杯の反抗をして、知秋は紅茶の蓋を取った。上がる湯気と、紅茶の香。お姫様は、目覚めない。
「文乃に淹れてきたんだろ。俺が代わりに飲んでやるよ」
 流季は最近、文乃と呼ぶようになった。前は、のんと呼んでいた。その変化が、知秋には複雑でしょうがなかった。
「じゃぁ、カップを代えてくる。これ、文ちゃんのだし」
「別にそのままでも…」
「駄目」
 何か言いたげな流季を残して、知秋はまたキッチンへと戻った。
 カップは文乃の為のもの。それを、流季が使う。何だか嫌だ。流季の事が嫌いなわけではない。小さい頃から可愛がってくれる幼馴染だ。でも、もう、子供じゃない。
 棚の奥から来客用のマイセンを取り出す。ロイヤルブルーの陶磁器。この色は気に入っている。流季にはあまり似合わない気もする。けど、どうでもいい。
「はい」
 持ってきたカップに無造作に注ぐ。相変わらず、文乃は眠っている。
「どうも」
「…流季君は、文ちゃんの事が好きなの」
「さぁ」
「好きじゃないなら、文ちゃんに触らないで、構わないで」
「文乃に妬いてるの?」
「逆」
「だよな」
 でも、多分、それだけじゃない。

 眠り姫は目覚めない。

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